『グラミンフォンという奇跡』
2010年7月18日http://comicsnavi.com/
『グラミンフォンという奇跡』
グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換
作者: ニコラス サリバン
出版社/メーカー: 英治出版
発売日: 2007/07/12
メディア: 単行本
内容紹介 「携帯電話」が世界を変える。いま最も注目すべき「世界の動き」を描いた感動のドキュメント!アジア・アフリカの発展途上国で、携帯電話が急速に普及している。その波は、これまで電気すら通っていなかったような地域、1日2ドル未満の所得で生活する「貧困層」の人々にまで及ぶ。携帯電話によって、経済・社会全体がダイナミックに変化しはじめた。情報通信が活発化し、農業も工業もサービス業も一気に発展。アフリカの「貧困層」の人々が、ケータイで買い物をしているのだ! だが、なぜ、そんな「貧しい」人々に、携帯電話が広まったのか?物語は、世界でも最も貧しい国の一つ、バングラデシュから始まる。戦争で荒廃した祖国の発展を夢見る起業家イクバル・カディーアは、バングラデシュでの携帯電話サービス立ち上げを考え、ただ一人、さまざまな企業や投資家に、その夢を説いて回る。彼の夢に共鳴し、協力を申し出たのは、2006年ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の総裁、ムハマド・ユヌスだった。 さらに、ノルウェーの電話会社、ジョージ・ソロスら米国の投資家、日本の総合商社・丸紅、NGO、そして現地の人々・・・夢は多くの人や企業を巻き込み、「グラミンフォン」が誕生する。その衝撃は、アフリカ・アジア各国に、野火のように広がっている。 生活が変わり、ビジネスが生まれ、経済が興り、民主化が進む。「貧困層」として見捨てられてきた、30億人の人々が立ち上がる。世界が、大きく変わり始めた。その全貌をドラマチックに描いた、衝撃と感動の一冊。
12日から15日までカルナタカ州のホスペットという田舎町に行ってきた。町といっても実際に滞在したのはこの町から10kmほど離れた村なのだが、その村に公衆電話のスタンドがあったのはある意味驚きだった。 それだけではない、このSTD/ISDと書かれた黄色い看板のスタンドがある隣りには、エアテルが設置したと思われる別の公衆電話スタンドがあった。写真の公衆電話は使われているシーンではないが、実際にこの電話を使って話している村人を、滞在中に二度ほど見かけた。もう1つの驚きは、携帯電話の普及である。僕がこの村を訪れたのはそこで活動している現地のNGOのプロジェクトを見学することだったのだが、そこのフィールド・スタッフは携帯電話を携行して、プロジェクトの事務所と現場との間で頻繁に連絡を取れる体制を作っていた。さらに、実際に村を見学していて、村人の何人か(殆どが男性だったけど)が携帯電話を手にしているのも見かけた。携帯電話が途上国で爆発的に普及しているという話はよく耳にするが、一般的に購買力が低いと見られている貧困層が多く居住する農村部で、携帯電話が使えるというのは驚くべきことである。(インドの場合は固定電話が農村部でもかなり使えるというのも驚きではあったが…。)ましてや、それがバングラデシュのような世界汚職・腐敗度ナンバーワンと言われているような国で、民間の携帯事業者がこれほど普及するというのはすごい。なぜそのようなことがバングラデシュで可能になったのか。本日紹介する1冊にはその経緯がかなり詳しく書かれている。僕は元々途上国での情報通信技術の普及には関心があったので、グラミンフォンがなぜこれほどまでに普及したのか、こうしたパートナーシップが形成される過程でどのような苦労話があったのかがとても知りたかった。本書はまさにそれにフォーカスした1冊ということができる。著者の論点は非常に明確である。1)民間企業は富と雇用の機会を生み出し、貧困国の経済開発において援助よりも手っ取り早い方法となり得る。そして、ITは外貨を引き付ける最大の財である。2)こうした民間セクター主導の開発プロセスを自立発展させていくための推進力は3つある。①ITの導入・適用、②現地の起業家、③外国人投資家である。3)特にマイクロファイナンスとの関連で示唆に富んでいるのは、マイクロファイナンスは個人や家族の暮らしを助けはするが、新しい雇用を創出する拡張性のあるビジネスは生み出さない、しかし、海外からの投資と技術的なノウハウが組み合わさると、マイクロファイナンスは経済発展を力強く生み出すという点である。もう1つ、インドとの関連で言えば、バングラデシュの場合は農村部への通信技術の普及は主に携帯電話網の整備を通じてもたらされたが、インドの場合はむしろ固定電話回線網の整備の方が専攻している点が本書では強調されている。バングラデシュではイクバル・カディーアという1人の起業家の奔走がグラミンフォン実現の背景にあったが、インドのビレッジフォンでその役回りを演じたのはサム・ピトローダであった。この辺を詳述するのはやめて、ご興味ある方は是非本書の67~72頁をご覧下さい。但し、本書に関しては3つの点で不満である。最初の2つの点は著者に対するもので、もう1つは翻訳者に対する不満である。1)著者であるニコラス・サリバンは、グラミンフォンの大口出資者だった丸紅について全く取材をせずに本書を書いた形跡がある。また、描き方も失礼である。「頼まれもしないのにやってきた外国人投資家の登場」(p.134)というのは、訳が悪いのか原文が悪いのかどちらかわからないが、丸紅に対して失礼だ。また、グラミンフォンは1996年8月に営業権を落札した後、丸紅のダッカ支店を間借りして活動を開始したとあるし(p.151)、グラミンフォンの大株主の1人として、宇都宮さんという役員まで派遣していた筈であるが、丸紅については具体的にどのような登場人物がいたのか、固有名詞では誰も登場してこない。全て「丸紅」という社名でしか書かれていないのである。さらに、丸紅は保有株式を売却してグラミンフォンから撤退しているが、この撤退に関する丸紅側の事情については、全く描かれていない。北欧の登場人物は固有名詞で生き生きと描かれているだけに、丸紅の扱いは不当だとの印象を強く受けた。(訳者もこの辺の補足取材はして訳者あとがきに書き添えるくらいの配慮はあってもよかったのではないかと思う。)2)もう1つの著者への不満は、携帯電話の普及によって実際に生活状況を劇的に改善した受益者の声を十分に拾っているとは思えないことである。サービス提供者の立場から取材をしており、理論的にそれが受益者を利して、貧困層のエンパワーメントに繋がるという理屈は理解できるのだが、実際に受益者がどのように力をつけたのか、以前と比べて何がどのように変わったのか、そうした声があまり聞こえてきていないような気がした。3)最後に、訳者に対して1つ言いたいのは、日本人の研究者でもグラミンフォンに早くから注目してそれなりの調査をしていた人がいるということである。グラミン銀行やバングラデシュについては事前勉強をかなりされたと訳者あとがきで書かれているが、本書以前にグラミンフォンを扱っていたレポート等には目を通し、日本で取材できる関係者には聴き取りをしておくぐらいのこと
『グラミンフォンという奇跡』
グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換
作者: ニコラス サリバン
出版社/メーカー: 英治出版
発売日: 2007/07/12
メディア: 単行本
内容紹介 「携帯電話」が世界を変える。いま最も注目すべき「世界の動き」を描いた感動のドキュメント!アジア・アフリカの発展途上国で、携帯電話が急速に普及している。その波は、これまで電気すら通っていなかったような地域、1日2ドル未満の所得で生活する「貧困層」の人々にまで及ぶ。携帯電話によって、経済・社会全体がダイナミックに変化しはじめた。情報通信が活発化し、農業も工業もサービス業も一気に発展。アフリカの「貧困層」の人々が、ケータイで買い物をしているのだ! だが、なぜ、そんな「貧しい」人々に、携帯電話が広まったのか?物語は、世界でも最も貧しい国の一つ、バングラデシュから始まる。戦争で荒廃した祖国の発展を夢見る起業家イクバル・カディーアは、バングラデシュでの携帯電話サービス立ち上げを考え、ただ一人、さまざまな企業や投資家に、その夢を説いて回る。彼の夢に共鳴し、協力を申し出たのは、2006年ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の総裁、ムハマド・ユヌスだった。 さらに、ノルウェーの電話会社、ジョージ・ソロスら米国の投資家、日本の総合商社・丸紅、NGO、そして現地の人々・・・夢は多くの人や企業を巻き込み、「グラミンフォン」が誕生する。その衝撃は、アフリカ・アジア各国に、野火のように広がっている。 生活が変わり、ビジネスが生まれ、経済が興り、民主化が進む。「貧困層」として見捨てられてきた、30億人の人々が立ち上がる。世界が、大きく変わり始めた。その全貌をドラマチックに描いた、衝撃と感動の一冊。
12日から15日までカルナタカ州のホスペットという田舎町に行ってきた。町といっても実際に滞在したのはこの町から10kmほど離れた村なのだが、その村に公衆電話のスタンドがあったのはある意味驚きだった。 それだけではない、このSTD/ISDと書かれた黄色い看板のスタンドがある隣りには、エアテルが設置したと思われる別の公衆電話スタンドがあった。写真の公衆電話は使われているシーンではないが、実際にこの電話を使って話している村人を、滞在中に二度ほど見かけた。もう1つの驚きは、携帯電話の普及である。僕がこの村を訪れたのはそこで活動している現地のNGOのプロジェクトを見学することだったのだが、そこのフィールド・スタッフは携帯電話を携行して、プロジェクトの事務所と現場との間で頻繁に連絡を取れる体制を作っていた。さらに、実際に村を見学していて、村人の何人か(殆どが男性だったけど)が携帯電話を手にしているのも見かけた。携帯電話が途上国で爆発的に普及しているという話はよく耳にするが、一般的に購買力が低いと見られている貧困層が多く居住する農村部で、携帯電話が使えるというのは驚くべきことである。(インドの場合は固定電話が農村部でもかなり使えるというのも驚きではあったが…。)ましてや、それがバングラデシュのような世界汚職・腐敗度ナンバーワンと言われているような国で、民間の携帯事業者がこれほど普及するというのはすごい。なぜそのようなことがバングラデシュで可能になったのか。本日紹介する1冊にはその経緯がかなり詳しく書かれている。僕は元々途上国での情報通信技術の普及には関心があったので、グラミンフォンがなぜこれほどまでに普及したのか、こうしたパートナーシップが形成される過程でどのような苦労話があったのかがとても知りたかった。本書はまさにそれにフォーカスした1冊ということができる。著者の論点は非常に明確である。1)民間企業は富と雇用の機会を生み出し、貧困国の経済開発において援助よりも手っ取り早い方法となり得る。そして、ITは外貨を引き付ける最大の財である。2)こうした民間セクター主導の開発プロセスを自立発展させていくための推進力は3つある。①ITの導入・適用、②現地の起業家、③外国人投資家である。3)特にマイクロファイナンスとの関連で示唆に富んでいるのは、マイクロファイナンスは個人や家族の暮らしを助けはするが、新しい雇用を創出する拡張性のあるビジネスは生み出さない、しかし、海外からの投資と技術的なノウハウが組み合わさると、マイクロファイナンスは経済発展を力強く生み出すという点である。もう1つ、インドとの関連で言えば、バングラデシュの場合は農村部への通信技術の普及は主に携帯電話網の整備を通じてもたらされたが、インドの場合はむしろ固定電話回線網の整備の方が専攻している点が本書では強調されている。バングラデシュではイクバル・カディーアという1人の起業家の奔走がグラミンフォン実現の背景にあったが、インドのビレッジフォンでその役回りを演じたのはサム・ピトローダであった。この辺を詳述するのはやめて、ご興味ある方は是非本書の67~72頁をご覧下さい。但し、本書に関しては3つの点で不満である。最初の2つの点は著者に対するもので、もう1つは翻訳者に対する不満である。1)著者であるニコラス・サリバンは、グラミンフォンの大口出資者だった丸紅について全く取材をせずに本書を書いた形跡がある。また、描き方も失礼である。「頼まれもしないのにやってきた外国人投資家の登場」(p.134)というのは、訳が悪いのか原文が悪いのかどちらかわからないが、丸紅に対して失礼だ。また、グラミンフォンは1996年8月に営業権を落札した後、丸紅のダッカ支店を間借りして活動を開始したとあるし(p.151)、グラミンフォンの大株主の1人として、宇都宮さんという役員まで派遣していた筈であるが、丸紅については具体的にどのような登場人物がいたのか、固有名詞では誰も登場してこない。全て「丸紅」という社名でしか書かれていないのである。さらに、丸紅は保有株式を売却してグラミンフォンから撤退しているが、この撤退に関する丸紅側の事情については、全く描かれていない。北欧の登場人物は固有名詞で生き生きと描かれているだけに、丸紅の扱いは不当だとの印象を強く受けた。(訳者もこの辺の補足取材はして訳者あとがきに書き添えるくらいの配慮はあってもよかったのではないかと思う。)2)もう1つの著者への不満は、携帯電話の普及によって実際に生活状況を劇的に改善した受益者の声を十分に拾っているとは思えないことである。サービス提供者の立場から取材をしており、理論的にそれが受益者を利して、貧困層のエンパワーメントに繋がるという理屈は理解できるのだが、実際に受益者がどのように力をつけたのか、以前と比べて何がどのように変わったのか、そうした声があまり聞こえてきていないような気がした。3)最後に、訳者に対して1つ言いたいのは、日本人の研究者でもグラミンフォンに早くから注目してそれなりの調査をしていた人がいるということである。グラミン銀行やバングラデシュについては事前勉強をかなりされたと訳者あとがきで書かれているが、本書以前にグラミンフォンを扱っていたレポート等には目を通し、日本で取材できる関係者には聴き取りをしておくぐらいのこと
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